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イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき

著者:クレイトン・クリステンセン
発刊:2001-07-01
カテゴリ経営・起業
対象読者経営者・起業家

書評

なぜベンチャー企業が大手企業に勝つことができるのか。ビジネスマン必読の一冊。

私が様々なビジネスに興味を持ち始めたのは、大学3回生の就職活動の頃からだったと思う。
就職活動の比較的早い段階で、私はいわゆる「ベンチャー企業」への就職を考えていた。その理由というのも、その少し前のリーマンショックあたりから大手企業安定神話が崩れだし、従来のように大手企業で入社から定年までを過ごすという考え方に疑問を持ったからである。
私が就職活動をしていた当時は日本航空(JAL)が経営破綻をした時であった。これは学生だった自分からしても大きな衝撃であった。

現在でも多くのベンチャー企業のサービスが大手企業のサービスに取って代わっている。
airbnbにより宿泊業界は打撃を受けているし、フィンテックビジネスにより金融業界は大きな打撃を受けている。uberによりタクシー業界が、人工知能により様々な人間の職務が機械に置き換わっている。

しかし、普通に考えれば、業界による部分もあるが、一般的には大手企業には優秀な人材が集まりやすく、資金、ノウハウもベンチャー企業に比べると多く保有している。
優秀な人材も集めづらく、資金、ノウハウにも乏しいベンチャー企業が大手企業に勝つ、ということは論理的には不可能なように思われる。

なぜ、無名のベンチャー企業に人・もの・金・情報が集まる大手企業が負けてしまうのか、私には甚だ疑問であった。

本書「イノベーションのジレンマ」はなぜ優秀な経営を続ける大手企業が、無名のベンチャー企業に負けるのか、ということを理論的に説明している。

本書では大手企業がベンチャー企業に負ける要因は「大手企業が優秀な経営をするから」であると主張する。
一見逆説的な主張であるが、本書を読み進めるとその内容に納得できるであろう。

大手企業は、「持続的イノベーション」と呼ばれる既存商品・サービスの機能をより拡充することで、利益率の高いハイエンド商品を作ろうとする。
そして、利益率の低いローエンド商品の開発は行わず、市場規模の小さな市場には決して参入しない。
これは効率よく利益を上げていくためには正しい経営手法である。

しかし、この間ベンチャー企業は小さな市場やローエンド商品に特化をして「破壊的イノベーション」を行い、大手企業からは取るに足らない市場ながらシェアを確立していく。
持続的イノベーションによる、技術向上のスピードは、ユーザーのニーズの向上スピードをはるかに上回るため、安く同程度の機能を備えた破壊的イノベーションによる商品には太刀打ちできない。

大手企業からすれば参入の価値がなかった市場でシェアを確立したベンチャー企業は、その市場規模を拡大していき先行者優位の利益を獲得している。
そして大手企業が旨味を感じる市場規模になった頃には、そこからのシェアの奪還は難しく、気づけば既存顧客をベンチャー企業に奪われているのである。

本書は1997年に発刊された書籍であるが、2017年現在も未だにロングセラーのビジネス書として書店に並んでいる。
ビジネスの世界は移り変わりが非常に早くなったが、この理論は今現在でも当てはまるようである。

実際、日本の家電企業は持続的イノベーションで、世界に誇れるような高機能の家電を続々と開発している。
しかし、今や中国や韓国のローエンド型家電が多数を占めるようになり、まさに本書で指摘されている現象が2017年現在も起こっているのである。

本書の続編である「イノベーションの解」においては、大手企業が破壊的イノベーションに対してどのように立ち向かえば良いのかが解説されている。

経営者に限らずビジネスマンであれば必ず読んでおくべき一冊。

章の構成

  • 序章
  • 第一章 なぜ優良企業が失敗するのか -ハードディスク業界に見るその理由-
  • 第二章 バリュー・ネットワークとイノベーションへの刺激
  • 第三章 掘削機業界における破壊的イノベーション
  • 第四章 登れるが、降りられない
  • 第五章 破壊的技術それを求める顧客を持つ組織に任せる
  • 第六章 組織の規模を市場の規模に合わせる
  • 第七章 新しい成長市場を見出す
  • 第八章 組織のできること、できないことを評価する方法
  • 第九章 供給される性能、市場の需要、製品のライフサイクル
  • 第十章 破壊的イノベーションのマネジメント-事例研究-
  • 第十一章 イノベーションのジレンマ-まとめ-

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