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「未来を読む」ビジネス戦略の教科書

著者:西村 行功
発刊:2015-10-08
カテゴリ経営・起業
対象読者経営者・起業家

書評

「正しい未来を予測」し、ビジネスに活かすにはどうすればよいのか。

ビジネスにおいて「未来を読む」ということが、これからますます重要になってくるという本であり、そういう意味では特に目新しい理論を打ち出したものではありません。
「未来を読む」という行動が現代のビジネスの現場においてあまりにも漠然と捉えられていることに警鐘を鳴らし、それをしっかりと定義づけすることによって、正しい「未来の読み方」を提唱しています。
特徴的なのは数々の実例をもって、読者が飽きないように丁寧に解説しているところでしょうか。そういう意味では読みやすさは感じます。

内容を見て行きます。
まず最初に「未来を読む」とひと口に言っても、そこには2つの意味があるということが書かれています。
・未来に新しい商品やサービスを提供できる(ビジネス・チャンス)
・未来に起こり得る危機を回避できる(危機管理)
この2つの思考は一見まったく別なベクトルを示すように思えますが、実は表裏一体で、危機を回避するために取るべき行動がビジネスチャンスに繋がったりもするのです。とかく、未来に思考を向けると希望的な観測に向かいがちなのですが、そこをもう一歩進んで「真剣に考える」ようにすれば、未来の危機についても空想ではなく、ちゃんと裏の取れた信憑性のある予測となり、そこから派生するビジネスチャンスも、希望的観測とは比べものにならないくらいの精度を備えることになります。

この本のキーワードは「アウトサイド・イン」です。つまりは自分本位ではなく、外部環境から先に検証しようという思考法です。
未来の読みが甘くなる要因は「自分本位」です。よく「自社の強みを生かして」などという戦略スタンスがありますが、それはいわばインサイド・アウト的な考え方であって順番が逆なのだと著者は言います。
まず外部環境から未来のマーケットを予想して、その上で初めて「自社の強み」なのだと。

具体的に外部環境とは何かといえば以下の通りです。
(1)社会・消費者の変化・・・インターネットの普及、少子高齢化社会の到来、女性の社会進出など
(2)経済・税制の変化・・・円安とデフレ脱却、消費税の増税予定など
(3)政治・政策・規制の変化・・・年金など社会保険制度の変更、地方分権など
(4)技術の変化・・・3Dプリンターやドローンの普及など
(5)地球環境の変化・・・地球温暖化、エネルギー革命など

こうした外部環境に関する情報を手にすることは、さほど難しいことではありません。問題はこれらの情報からどのように未来を洞察していくかということです。ポイントとして以下の4つが挙げられています。
1.未来と正面から向き合う。
外部環境は凄まじいスピードで日々変化していくので、あまり対象の範囲を狭めてはいけない。ビール会社なら10年後のビール市場のことだけを考えるのではなく、広めの思考で未来の飲料市場や、もっと広範にまでを対象にすべき。過去に大きな成功体験のある企業などは、意外にそれに固執してしまい、思考の範囲を狭めてしまう傾向があるようだ。

2.未来観の粒度を上げる。
「粒度を上げる」とは、例えて言うとデジタルカメラの解像度を上げるというイメージ。例えば「インターネットの時代が来る」という未来をイメージしたら、その中でどういった分野のビジネスが伸びるのか、さらにその分野で、、、というように焦点を次第に絞っていくことと理解する。アマゾンも最初から書籍販売をやろうとしたわけではなく、インターネット事業の中で何が一番一般化しやすいかを考えた結果が書籍販売だったという。

3.社会の未充足ニーズを探す。
顧客が自然と諦めてしまっていたことを探し出して、既にあった商品やサービスとの差別化をはかること。クロネコヤマト宅急便サービスなどがよい例で、それまでは郵便局などに手持ちしなければいけなかった小荷物を、1個単位から集荷、配達するサービスを始め、顧客のニーズを満たした。

4.複数の未来の対応する。
未来を予測すると、不確実なことに必ずぶち当た。それを不確かなデータや主観で決めてつけてしまうのは危険。不確実なことは不確実なままで未来を考えるべきで、そのため予測する未来は複数になるのはやむを得ない。とはいえ、あまり手を広げるのも現実的ではないので、著者の経験上では3~5つのケースに絞り込むのがベスト。特に人は楽観的になる傾向があるので楽観できない未来にも考えを巡らせるよう注意すべき。

上記の通り、こうした論説の合間々々に、具体的な企業の成功例、失敗例がふんだんに盛り込んであり、後半は更に実例の割合をグッと増やして、いわゆる「読み物」風にして、理論が上手く読者の腹に落ちするように工夫されています。そういう意味ではよく考えられた構成です。ただ、こうした実例を挙げる本を読む際に注意しなくてはいけないのは、こうした例を自分の会社に安易にアプライしてしまうという点です。たとえ業界が同じだったり、会社の特徴が似ていたとしても、それこそ外部環境は時間の経過とともに変化していますので、あくまで参考までに留めたいと思います。

本書冒頭の「はじめに」の最初のフレーズが「未来を真剣に考える時代になった」とありました。しかし既にほとんどのビジネスマンは未来を真剣に考えているわけであって、真剣に考えていなかった会社は既に淘汰されているのではないでしょうか。著者はコンサルタントですので、実際の業務ではクライアントそれぞれに最適のリサーチをしてくれるのでしょうが、それを本として汎用的に理論化しようとすると若干難しかったのかな?と思います。
極論してしまえば「未来を読む際にはアウトサイドイン思考でいきましょう」でも済んだのだと思いますが、それを分かり易く伝えるためには数多くの実例が必要だったのかなあ、とも思います。

章の構成

  • 第1章 “未来洞察”に成功した企業、失敗した企業―マクロ環境の変化を読み解き、未来ビジネスを模索する
  • 第2章 “未来戦略”に成功した企業、失敗した企業―ミクロ環境を捉え直して、未来ビジネスの戦略を洞察する
  • 第3章 未来ビジネスを創造する―思考ツールとしてのFUSIONフレームワーク

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