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進化しすぎた脳―中高生と語る「大脳生理学」の最前線

著者:池谷 裕二
発刊:2007-01-19
カテゴリ心理学
対象読者人事

書評

脳科学初心者にオススメの一冊

こちらの記事を読まれている皆さんは、脳科学について興味をお持ちの方でしょうか?

本書は脳科学の専門家である、東京大学大学院薬学研究科教授の池谷裕二氏が一般の中高生に行った、脳についての講義を書籍化したものである。
中高生に対しての講義、ということもあり、脳科学には興味はあるけど全然前提知識がない、という人にも大変読みやすく理解しやすいものとなっている。

中高生と池谷氏の質疑応答形式で話が進んでいくため、抽象的で内容が難しいところは、丁寧な説明が入り、脳科学初心者の私であっても非常に頭に入ってきやすい内容であった。

本書の内容は5章構成となっており、第5章は初版が出版されてから2年半後の追加講義の内容となっている。

読み進めていくと人間の脳がいかに複雑な作りになっているかがよくわかる。これだけ科学や様々なテクノロジーが発展しても、まだまだ脳については解明されていないことが非常に多い。しかしそれゆえに人間の脳は面白い。

本書の中にあった内容で私が面白いと思ったものを2点紹介する。
1点目は、動物実験でそんなことまでできるようになっているのか、という驚き。ネズミの脳に電極を差し込むことで、ネズミをラジコンのようにコントロールすることができる、ということである。
何かを見た時感じた時、脳のどの位置がどのように反応するのか、ということがある程度解明されている。それを活用し、脳の特定の位置に電流を流せば、ネズミは特定の動きをするようになるという。ネズミの動きを完全にコントロールすることができるのである。
そしてそれはつまり人間にも原理的には応用することができるのである。

その後に問いかけられる「仮に自分がラジコン化されてしまったとして、それは果たして『自分』だろうか」という問いには大変考えさせられるものがあった。

そして2点目。
脳の記憶は非常に曖昧であるが、それが生物が生き残る上で非常に役に立っている、ということ。
例えば今朝の通勤の風景なども、なんとなくは覚えているが人・ものの正確な位置までは覚えていない。
しかしこれが生物の生存において非常に大事だそうだ。

仮に車に轢かれそうになった経験があったとして、一般に人間はその経験をもとに、似たような状況が発生した時に車に注意するようになる。
しかし、記憶が完璧に正確であると車に轢かれそうになった経験と似たような状況が発生しても、人間の脳は、この状況を全く別の状況として判断してしまうため、危険察知をすることができないという。
人間は記憶を曖昧にすることで、ある種の共通項・一般項を見つけ出し、似たような状況に対処できるようになっているという。

あえて曖昧にすることで、危険察知に役立てるとは非常に面白い。

他にも様々な脳科学の面白い内容が紹介されている。
中高生の観点ならではの自由な質問も興味深い。

現代では、人工知能の発達が大きく取りざたされているが、今後脳科学の解明がより進むことがあれば、より人間の脳に近い形での人工知能開発が可能になるかもしれない。

まだまだ分からないことが多い「脳」であるが、「脳」は面白い!と感じさせてくれる一冊である。

章の構成

  • 第1章 人間は脳の力を使いこなせていない
  • 第2章 人間は脳の解釈から逃れられない
  • 第3章 人間はあいまいな記憶しかもてない
  • 第4章 人間は進化のプロセスを進化させる
  • 第5章 僕たちはなぜ脳科学を研究するのか

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