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単純な脳、複雑な「私」 (ブルーバックス)

著者:池谷 裕二
発刊:2013-09-05
カテゴリ心理学
対象読者人事

書評

ベストセラー「進化しすぎた脳」待望の続編

本書の著者は脳科学者池谷裕二氏。
高校生向けに脳科学を講義したベストセラー「進化しすぎた脳」の待望の続編となっている。

前作の「進化しすぎた脳」を読んで、脳科学に興味を持った、という方も少なくないのではないだろうか。

本書も前作同様、高校生向けの講義内容を書籍化したものとなっているため、著者と高校生との対話形式で話は進んでいく。
脳科学に対しての知見がない読者でも理解しやすいよう、わかりやすい言葉で脳科学を解説してくれる。

様々な実験結果を元に話が進んでいくが、その度に脳の意外な構造に驚かされる。
今作の内容で特に私の印象に残ったのは大きく2点ある。

1つは、人間の判断の多くは無意識下で行われている、ということ。
私たちは物事の判断を全て自分が意識して行なっていると考えているが、実際はそうではなく、意識下には残らない情報を無意識にインプットして、その情報を元に無意識にアウトプットしているという。
実験の一つに、サブリミナル効果(肉眼では見えないほど一瞬だけ情報を映し出すことで人間の潜在意識にのみ訴えかける効果)を元にした話があった。サブリミナル効果で「頑張れ」といったポジティブなワードを映し出すと人間はその言葉を認識できないものの、パフォーマンスが上昇する、という研究結果があるらしく、こちらは大変意外であった。

そして2つめは、自由意志についての話。人間は自分たちが思っているほど、自由ではないということが驚きであった。
私たちは体を動かす際、「動かしたい」と思ってから体を動かしている、と思っている。しかし実際は、「動かしたい」と思う少し前に人間の体は「体を動かす準備」をしているというのだ。
また「盲点」という人間の仕組みも、実際には見えていない箇所を人間の脳は勝手に補うようにできている。
こういったことからも、人間は自分の意志とは別に、脳や体によって決められた通りに動いているそうだ。こういった内容は大変驚きであった。

脳についてはまだまだ解明されていないことが多いようだが、それでも本書の内容は十分衝撃であった。
自分の体のことなのに、驚くほど理解していないのは面白い。脳は思っていたよりも単純ではあるが、その単純な仕組みを非常に精緻につなぎ合わせている。その精巧さには神秘的とも感じた。

なかなか普段脳科学に触れる機会は少ないが、本書では高校生でもわかりやすいような簡易な言葉で解説してくれるため、文理関係なく非常に理解しやすい。私自身も前作と合わせて読むことで、大変脳科学に対して興味を持つようになった。おすすめの1冊。

章の構成

  • 第一章 脳は私のことをホントに理解しているのか
  • 第二章 脳は空から心を眺めている
  • 第三章 脳はゆらいで自由をつくりあげる
  • 第四章 脳はノイズから生命を生み出す

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